高校の時、ピアニストの倉戸テル先生に師事した時期があり、テル先生はまだ20代後半でいらっしゃいました。当時若かったというものもあるけれど、とにかく対等な立場を感じさせる雰囲気でレッスンをしてくださいました。
日本の最高峰の芸術大学である東京芸大から、アメリカのジュリアード音楽院に行った方で、もちろん演奏も素晴らしい非常に能力のある方です。
でもレッスン中は、
「うわ、むずかし、よくこんなの弾くね〜」とか
「ようしそこからだ、いけ〜!」(盛り上がっていくところで)
などとまるでちょっと上の先輩にでも習っているような感覚でした。
だから私も、自分の力を出してレッスンに臨むことができ、力を引き出してもらったし、その時に感じていた悩みも話すことができました。
先生のとあるコンサートに行った時、不調な様子で演奏されたことがありました。
終演後に私が挨拶に行くと
「緊張して全然弾けなかった〜。僕のばかばかばか!ごめんね。せっかく来てくれたのにあんな感じで。」
と言いながら頭を壁にゴンゴン打ちつけていました。
当時は、こんなすごい人でも緊張してパフォーマンスが落ちるんだなと、みんな完璧なのかと思っていたので、そういう意味ですごく印象深かったのです。
そして、テル先生の反応は振り返ってみると本当に素晴らしいものでした。
多くの演奏家が、大きな失敗の後では例え挨拶に来てくれた人でも会いたくなくなったり、会っても挨拶に行った方が気を遣う結果になると思います。
人はみんな完璧ではなく、また失敗なくして成功もありません。
そういうものを、ただ口で言うのではなく先生ご自身の全てで教えてくださったのだと今は思います。
私はピアノ以上に長く続けているものはないので、ピアノを通して言えることが最も伝わることだと思っています。
楽器の勉強というものは、本気で長くやっていくと非常に質の良いすばらしい先生と出会うことができます。
個人レッスンという性質が、その関わりを深くします。
グループレッスン、集合体の学習には叶わないものがあります。
(だから料金が高くても価値があるんです)
そうして小さい頃からの記憶が残り続けて生きる糧になっていきます。
人間関係において難しさを感じた時でも、ああいう先生というか『人』がいるのだなと思うだけで、人への信頼感を根本的に失うことがありません。
教え込むということではなく、テル先生のような何らかの良い質を伝えることができる、そんな指導者になりたいものです。
おすすめ動画(かなりピアノに興味がある人向け)
日本人ピアニストの「女性」としては、一番うまいと思っている内田光子さん。
100回生まれ変わっても97回はピアニストになりたいと言ったことで有名な方です。(他の3回はバイオリニストらしい)
私の母と同い年なので、現在は70代前半で現役のピアニストです。
ショパンコンクールを世界最高峰のコンクールと捉えるのであれば、彼女は日本女性の中で文字通り一番上手い存在であるといえます。(第2位取得)
中学生の頃に、動画で話しているドビュッシーのエチュードの彼女のCDを買いました。
毎日聴いていて、楽譜も取り寄せて弾いてみましたが、「はあ?」と思うくらい難しかったです。
大学受験の時に取り組みましたが、今考えてみれば脳と体の柔軟性がむちゃくちゃ問われる曲なので難しかったのです。
彼女は確かフランスに住んでいるのですが、インタビューはドイツ語で受けています。もちろん英語もフランス語も日本語も堪能です。
しかも、こんなに音楽の難しい表現まで言葉にできる能力。
今は上手い人がたくさんいる時代ですが、本当に突き抜けている人というのはなかなかいないなと思います。(偉そうなセリフ。。。)