ピアノの世界では、先生がおっしゃった表面的なことだけではなく、それを通して何が言いたいのか気づくことが必要と言われたりします。
教える立場になってみると、そのことがものすごくよく理解できますが、教えられる立場の人が混乱することがあるのは当たり前です。
そのあたりのことについて書いてみたいと思います。
私の指導方法で『最終的な着地点はそれじゃないけど、今週はその練習をしてきてね』というニュアンスがあります。
よくある声がけで、混乱を招きやすいものに下記があります。
1.P(『ピアノ』小さく)を意識しすぎて弱々しい弾き方になっているとき。
指導:全部フォルテ(強く)で弾いてきてね。
狙い:Pとフォルテ両方を練習することで、良い力加減のP(ピアノ)が出せるようになる。
よくある混乱:「先週は全部フォルテで弾いてきてと言ったのに、今週は静かに弾いてと言った、意味わかんない!」「Pは小さく弾くはずなのに、フォルテで弾くってどういうこと??」etc...
2.弾いてきてくれた速度が弾ける速度ではないとき。
指導:最終的にたどり着いてほしい速さよりも、かなりゆっくりのテンポの速度での練習を指示する。
狙い:ゆっくりのテンポで弾くと、細かい違いを見分けることができるようになり上達する。
よくある混乱:「速度表示は速いのに、どうしてゆっくりのテンポで練習しなくちゃいけないのかな。」「先生の言ったゆっくりの速度で弾いていったら、今度はもっと速くしようと言われた。」etc..
3.音の粒がそろっていない、音の長さや質、大きさが不揃いの場合。
指導:1拍目と3拍目にアクセントをつけて練習してきてねと声をかける。
狙い:1拍目と3拍目は少し強すぎてもバランスが良く聞こえることが多い。また、アクセントをつける、つまり力を入れると、次の音は力を抜かざるを得ない状況になるため、強制的に脱力ができるようになることがある。結果として、音が均等に鳴っているように聞こえるようになる。
よくある混乱:「せっかく、アクセントをつけて弾いていったのに、今度はそれはやらなくていいよと言われた。せっかく練習したのに。」「1拍目と3拍目にアクセントをつけると、曲として変な感じがするけどこれで練習していいの?」etc...
伝え方って難しいといつも思いますが、時間的な制約(レッスン時間の問題)だったり、伝える相手の考え方の癖を見極めたうえで、あえて説明しないこともあったり、できていないことについて、こちらが伝えるのではなく、自ら気づいてもらったほうが良い場合だったりで、伝えるときにこれで混乱はないだろうということは恐らくほとんどないかもしれません。
そして残念ながら、どこで混乱をきたしているか、言ってもらわないと気づきづらいです。だから生徒さんが混乱した時には、何に混乱しているか伝えて頂けると助かります。
人間は、その場ですべてを理解する性質のものではありません。いろんなプロセスをたどって少しずつできるようになります。ある曲が弾きたいと思ったときに、この練習さえすれば上手になるという鉄則みたいなものは存在しないのです。
教えたり、教えられたりする長い人生の真っ最中です。伝え方の勉強を私がし続けることはもちろんですが、先生が矛盾したことを言っている・・・ではなく、「なぜそのように言ったのかな」とか、「じゃあ聞いてみよう」と思うことは、今後の人生に大きく役立つのではないでしょうか。
さちの本棚
天才かどうか、ということよりも、人によって、見ること聴くことが全く違うという事実に驚きました。
ご自身やお子さんが、ある事柄が苦手な理由がわかるかもしれません。
私自身はというと、聴覚優位の人間で視覚でのイメージが難しいため、方向音痴だったり空間認知の力が弱いのかなと想像しました。
他者を理解するのにとても良い本です。