日本を代表する孤高の天才数学者である岡潔は、数学は情緒だと言い切ったそうです。はたして「数学的なセンス」と「情緒」というのは本当に関係するのでしょうか。
音楽的な素養と数学的なセンスの関係について、子どもを対象にして実験した論文を見つけました。今回はこれをご紹介したいと思います。下記、論文の要旨をご覧ください。
幾つかの研究が行われているのですが,音楽を行っている子どもというのは数学的センス、とりわけ『空間的認知能力』に長けていることが示されています。古くはピタゴラスが音階と数理の間に共通する美を見出したように,音楽というのは何かしら、数学的センスにかかるものがあるのだろうなと考えました。
≪空間的認知能力とは≫
物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が三次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する能力のことです。この能力が高く、頭の中で物や空間の形や関係性を視覚化するのが得意な人は、科学や数学の分野で成功する傾向にあると言われています。つまり、空間的認知能力が高い人は、「数学のセンスがある」とも言えます。
スポーツや芸術の分野で天才と呼ばれている人は、とりわけ空間的認知能力が発達しています。ビジネスの分野でも、優れた経営者や管理職などは、この能力が高い傾向にあります。
空間的認知能力の優れた人は,ものごとの全体像をぱっと把握し,本質を見抜くことに長けています。いろいろな情報が瞬間的に組み合わされ,組み立てられ,形になるからです。
例:サッカーなどで、回りの選手を良く見て、決定的なパスを出すことができる。ビッチを上空から見ているようにプレイをするといいますが、これには高い空間的認知能力が要求されます。中田英寿選手などは、非常に優れた空間認知能力を持っていると言われています。
【以下は論文の要旨です】
本研究では音楽に関わる認知機能と数学や科学に関わる認知機能の間の関連性について子どもを対象にして調査を行った。
第一の実験では音楽のクラスをとっている子どもとサッカーのクラスをとっている子どもの数学的能力を比較したが有意差は見られなかった。
第二の実験で、音楽を集中的に練習した子どもとそうでない子どもの数学的能力の比較を行ったところ、空間的認知能力について差が見られた。
第三の実験では音楽の練習を集中的に行っている子供を始めとして、ダンス,演劇,創造的な執筆活動,絵画の練習を行っている子どもを対象に、それぞれの数学的能力を比較した。その結果、音楽の練習を集中的に行っている子どもは、空間的認知能力と推論能力に長ける傾向が、他の練習を行っている子供より多く見られた。
Effects of music instruction on developing cognitive systems at the foundations of mathematics and science
Spelke, E. (2008). Effects of music instruction on developing cognitive systems at the foundations of mathematics and science. In Asbury, C. & Rich, B. (Eds.), Learning, Arts, and the Brain, (pp. 17–49). New York/Washington, D.C.: The Dana Foundation.
Abstract:
In this study, the researcher conducted three experiments that examined the relationship between the cognitive systems involved in music and those involved in math and science abilities in children. The first experiment compared the math abilities of students receiving music instruction to those in a soccer program. No clear connections were found after accounting for other demographic variables. The second experiment compared the math abilities of students with intensive music training to those with little music training. On measures of small exact numbers, large approximate number, and number words there were no associations, but the researcher did find a positive correlation in measures related to spatial cognition. The third experiment compared the music abilities of students participating in different arts forms: music, dance, theater, creative writing, and visual arts. Students with music training outperformed students without music training on tasks related to spatial cognition and reasoning. Students with visual arts training performed well on measures of geometry in visual forms.