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脳に与えるピアノ演奏の可能性

高校1年生の生徒が最近、ピアノを少しお休みしたいと言ってきました。

 

その子は東大に何人も入るような進学校に通っていて、学校では朝の6時から夜の8時まで勉強するそうです。

家に帰ってきてからも宿題をしなければならず、勉強以外何もできないんだといつも疲れている様子でした。

 

お休みしたい理由というのが、今までは唯一空けていたピアノのレッスンの時間帯に、塾をいれることになったからでした。

これを聞いて、私はとめませんでしたが、親御さんの判断にがっかりしました。

 

フェルデンクライスで脳の可能性を勉強しているのでわかってきたことですが、ピアノは脳に計り知れない可能性を与えています。確かに、勉強はしなければ覚えられないし、問題を解く考えも浮かびません。それでは根本的に、覚えるため、考えるための脳みそはどうしたら育つのでしょうか。

 

その一つの手段に、「脳に快適かつ、いつもと違う刺激(変化)を与え続けること」があります。

 

人気の習い事に、水泳があります。水泳もとても良い刺激を脳に与えると思います。

ですが、一度クロールを習得したとして、その後、自分でその泳ぎについて変化を加え続けるというのは、相当難しいことではないでしょうか。

 

そうしていつしか、同じ泳ぎ方を反復することになります。そしてそれは習慣(自動的に動かしていること)に過ぎません。

このような状態では、脳の一定の部分しか使わないので、筋肉や骨格を動かしているという、まさに運動そのものの機能しかなくなってきます。(もちろん、オリンピック選手を目指すような泳ぎ方をする場合には、変化を加え続けて速くなろうとするので、素晴らしい可能性を脳にもたらすでしょう)

 

ではピアノに戻ってこれを考えます。ピアノは曲が無尽蔵にあります。ずーっと同じ曲はやりません。

発表会などは3か月くらい同じ曲を弾きますが、基本的には1か月弱くらいで他の曲をやっています。これだけで、大変化です。

 

かつ、一つの曲を習得しようと考えたときに、

 

音を読む、指番号を考える、記号の意味を考える、右手を弾く、左手を弾く、両手で弾く、歌いながら弾く、リズムうちをする、イメージをしながら弾く、右手のメロディーを大きく弾く、スタッカートで弾く、スラーで弾く、立って弾く、座って弾く、目をつぶりながら弾く、弾けないところだけ取り出して弾く、鎖骨が緩んでいると感じながら弾く、おなかが暖かいと感じながら弾く、楽曲分析する、指が手首の付け根から生えているのを意識して弾く、アクセントをつけて弾く・・・などなど。(言い出したら、100個以上書き出せそうなのでやめておきます。

 

自分の望む演奏ができるようになるまで、変化を加え続けていきます。

 

さらには、フェルデンクライスでも言われることですが、脳科学的にも、脳に大きな変化をもたらすと証明されている「分化」の動きを、ピアノ演奏は行っています。

 

動きにおける「分化」とは、一つのことをしながら、他の動きをしたり、ある部分では動きをとめつつ、他の部分は動かしたりすることを言います。

ピアノで言うと、まず左手と右手同時に全く違う動きをしますし(ペダルという部分では足も)、ある音を保持しながら、他の指は全く違うことをやってるというような複雑な動きもします。

ピアノ演奏の分化の動きはこれに留まりませんが、書くのも複雑で書ききれません。

 

そして一番大事なこと、「ピアノが好きである場合」に、この動きが快適になり、「脳に快適かつ、いつもと違う刺激(変化)を与え続けること」にあてはまってくるというわけです。

 

すごーく長くなってしまいましたが、勉強をはかどらせたい、暗記したい、考える力をつけたいと思ったときこそ、「ピアノの出番だ!」と思います。

 

勉強の合間の気分転換程度でも、ピアノを弾くことができたら、その時間がむしゃらに勉強し続けるよりも、何倍もの効果をそこに得ることができると思います。

 

どうか、目先に見えることだけではなく、長きにわたって与えることのできる可能性を信じて頂けたら幸いです。

 

指導にあたって

当時、講師かなざわの1歳の息子がピアノで楽しそうに遊ぶ姿に感激しました。これは、その当時のかなざわにとってピアノは『楽しい』ものではなくなっていたからです。

 

人は本来、ピアノが楽しくないとか苦手だとは思いません。しかし、ピアノが苦手で楽しくないと感じ、結局は諦めてしまう人は多いのが現実です。それを変えたいという思いが、ピアノ教室を立ち上げる原点となりました。

 

お子様にピアノを習わせたい親御さんや、自分自身がピアノを学びたいと思っている大人の方々は、レッスンに何を期待されていますか?

私がピアノを習っていた当時は「上手い」ことが全てでした。

それは音大に入っても変わりませんでした。

 

しかし社会に出て「上手い」人に価値があるというわけではない、ということがわかりました。

それはとてもショッキングなことでした。

そこにたどり着けば上手くいくものだと思って努力していたからです。

これは勉強,就職に対する考え方と同じだと思います。

 

『上手い』演奏は目指しません。

ピアノレッスンそして練習というプロセスを通して『質の良い学び方』を学びます。

「結果」は、『学んだ』後に勝手についてきます。

練習、学びの質が良ければ自然と「上手い」演奏になるかもしれません。

 

 私が準備できるのは、まずは何度でも間違えられる、どのような弾き方でも批判を受けない、つまり「安全だ」と感じる環境を作り生徒さんが本来の力を出せるようお手伝いをすることです。

音楽は非常に歴史が深く人間の叡智が宿っています。

それを演奏する楽しさというのは格別です。

しかし、やり方を誤ると体を傷つけます。

 

私自身が、小学校高学年の頃から体の痛みに苦しめられることになりました。

30代を過ぎてからは治療法の確立されていないフォーカルジストニアという脳神経の難病を発症しています。

痛みや病気の発生はその取り組み方にありました。

 

努力や根性、厳しい訓練がもたらす弊害を、ジストニアをきっかけに始めたメソッド「フェルデンクライス」から学びました。

フェルデンクライスは脳の可塑性を利用した科学的なメソッドです。

動きを通して脳を活性化します。

 

根性論でなく、何か有名な教育書に書かれているからでもなく、ただ脳がどのようにしたら活性化するのか、よりよく学べるのか、それをフェルデンクライスは体験をもとに気づかせてくれます。

 

私の指導の源はそこにあります。

指導とは、その演奏を成しとげるための『新しい選択肢』を提示するものです。

『理想』はおしつけません。

一人ひとりに寄り添い、 その人らしい演奏を尊重します。

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